本日は口腔外科の専門医の立場から、口唇がんの診断を受けた患者さんが最も不安に感じるであろう、外科手術の内容と術後の機能回復について詳しくお話しします。口唇がんの治療において最大の目的は、がん細胞を完全に取り切ることですが、それと同時に唇としての機能をいかに維持し、元の外見に近づけるかという点も極めて重要です。手術の基本は、腫瘍から一定の安全距離を置いて周囲の組織をひとまとめに切除する広範切除術です。腫瘍が小さい段階であれば、単純に切除した後に直接縫い合わせるだけで、外見上も機能上も大きな問題を残さずに済みます。しかし、腫瘍が大きく、唇の半分以上に及ぶような場合には、失われた組織を補うための再建手術が必要になります。再建には、自分の頬の組織をスライドさせて使う皮弁法や、腕や足の組織を血管ごと移植する遊離組織移植術など、高度な技術が用いられます。これらの技術により、唇のボリュームを確保し、口を閉じる力を維持することが可能になっています。手術の際には、目に見えないがんの広がりを確認するために、術中に組織を迅速に検査し、取り残しがないかを確かめながら進めます。また、顎の下のリンパ節に転移がある場合やそのリスクが高い場合には、リンパ節を周囲の組織ごと取り除く頸部郭清術を併用することもあります。放射線治療は、手術が困難な症例や、術後に再発のリスクが高いと判断された場合に選択されます。近年は、がん細胞だけに集中して照射する技術が進化し、周囲の正常な組織へのダメージを最小限に抑えることができるようになっています。治療後のリハビリテーションも、外科治療と並んで非常に重要なプロセスです。唇の感覚や動きが変わるため、ストローで飲む練習や、特定の音を発音する訓練、さらには食べ物が口からこぼれないようにするトレーニングなどを継続的に行います。患者さんの中には、手術後の外見を気にされて社会復帰を躊躇される方もいらっしゃいますが、最近の形成再建技術は非常に優れており、化粧やマスクなどの補助を使いながら、以前と変わらぬ生活を送っている方がたくさんおられます。口唇がんは、確かに深刻な病気ではありますが、現代の集学的治療をもってすれば、克服可能な疾患です。私たち医師は、単に病気を治すだけでなく、患者さんが再び笑顔で会話をし、美味しい食事を楽しめるようになるまで、全力でサポートいたします。治療方針については、十分な時間をかけて納得がいくまで話し合い、最適な道を選んでいきましょう。
専門医が詳しく解説する口唇がんの外科治療と機能再建