本事例研究では、化学療法や強いストレスによって多発性口内炎を発症した患者3名の食事選択と、その際の痛みの主観的評価について分析します。対象者Aは、舌の側面と頬の粘膜に複数の潰瘍を抱えており、固形物の摂取がほぼ不可能な状態でした。Aが最も低刺激であると評価したのは、市販のゼリー状栄養補助食品と、完全に裏ごしされたジャガイモの冷製スープでした。特にゼリー状食品は、ストローを使用することで患部を完全に回避して摂取できる点が評価されました。対象者Bは、歯ぐきに深い口内炎があり、咀嚼時に激痛が走る症例でした。Bが選択したのは、全粥をミキサーにかけたものに、卵豆腐を混ぜ込んだソフト食です。卵豆腐は一般的な豆腐よりも表面が滑らかで崩れやすく、咀嚼をほとんど必要としないため、痛みスコアが大幅に改善しました。対象者Cは、喉の奥に近い部分に口内炎があり、嚥下時の痛みが課題でした。Cにとって最適だったのは、片栗粉で強めのとろみをつけたカボチャのポタージュでした。とろみがないスープでは嚥下反射の際に激痛が生じましたが、高い粘性を持たせることで、痛みの閾値を下回る刺激で摂取が可能となりました。これら3つの事例に共通するのは、単に「柔らかい」だけでなく、表面が「滑らか(スムース)」であり、かつ「化学的中和性」が高い食品が選ばれている点です。酸性度の高い食品(pH4以下)や、浸透圧の高い高塩分の食品は、すべての対象者において拒絶されました。また、食品の温度が体温から5度以上離れると、痛みの訴えが急増することも確認されました。本研究の結果、重症の口内炎における食事支援の優先順位は、1に温度(36度前後)、2に物性(均質で滑らかな液体から半固形)、3に化学的性質(低塩分、低酸性)であることが示唆されました。この知見は、病院食の提供だけでなく、在宅で療養する患者のQOL向上においても極めて重要な指針となります。特に、市販のプリンやムースを活用する際も、成分表示を確認し、柑橘由来の酸味料が含まれていないものを選ぶという細やかな配慮が、痛みのない栄養摂取を可能にします。事例から得られたもう一つの重要な視点は、水分補給のタイミングです。食事の直前に粘膜保護剤や水で口をゆすぐことで、食品の成分が直接潰瘍面に触れるのを防ぐ物理的な層が形成され、さらなる痛みの軽減に寄与したと考えられます。
重症の口内炎患者が選んだしみない食品の事例研究