下の歯が一本少ないみたいなんです
それは、歯の定期検診で歯科衛生士さんに歯石を取ってもらっている最中のことでした。何気なく口の中の地図のようなものを見ながら、「下の前歯の数が、一本少ないですね」と告げられたのです。え、少ない?そんなはずはない、と最初は信じられませんでした。毎日鏡で見ていたはずの自分の歯です。しかし、言われてから改めて自分の下の歯を舌でなぞり、指で数えてみると、確かに前歯が中心から左右非対称で、一本足りないことに気づきました。衝撃でした。今まで何十年も自分の体の一部として共に生きてきたのに、その基本的な数すら把握していなかったのです。すぐにレントゲンを撮って詳しく調べてもらうと、私の場合は「先天性欠如」といって、生まれつき永久歯の元となる「歯胚」が一つ存在しなかったことが原因だと分かりました。つまり、乳歯はあったけれど、その後に生えてくるはずの永久歯がそもそも用意されていなかったのです。幸いなことに、私の場合は歯並びが自然に隙間を埋めるように並んでくれたため、審美的にも機能的にも大きな問題はなく、今まで気づかずに過ごせていたようでした。しかし、先生からは、一本少ないことで他の歯への負担が少し大きくなる可能性があることや、将来的に歯並びが動く可能性もゼロではないと説明を受けました。この日を境に、私は自分の歯に対する意識が大きく変わりました。ただ磨くだけでなく、一本一本の歯を慈しむように、そしてその本数や並びをしっかりと認識しながらケアするようになりました。自分の体の小さな特徴を知ることは、自分自身をより深く理解し、大切にするきっかけになるのだと、この経験を通して痛感しました。