大人になってから下の歯並びが悪くなってきたと感じる場合、まず疑うべき犯人は「親知らず」かもしれません。親知らずは第三大臼歯とも呼ばれ、永久歯の中で最も遅く、多くは10代後半から20代にかけて生えてきます。現代人は顎が小さくなる傾向にあるため、この最後に生えてくる親知らずのためのスペースが十分に確保されていないケースが非常に多いのです。特に下の顎は骨が硬く、スペースの融通が利きにくいため、下の親知らずは正常な位置にまっすぐ生えることができず、横向きや斜めになって埋まったままになることが珍しくありません。問題は、この不適切な方向に生えようとする親知らずが、前方に並んでいる歯を前方へ、前方へと押し出す強い力を加えることです。一番奥から加えられた圧力は、ドミノ倒しのように歯列全体に伝わっていきます。そして、その力の逃げ場として、構造的に動きやすい下の前歯がガタガタと重なり合ったり、捻じれたりしてしまうのです。見た目には親知らずが生えてきていないように見えても、歯茎の下、骨の中でじわじわと前の歯の根を押し続け、気づかないうちに歯並びを悪化させていることもあります。朝起きた時に奥歯に圧迫感があったり、以前はなかった下の前歯の重なりが気になりだしたりしたら、それは親知らずが活動を始めたサインかもしれません。歯並びの悪化は見た目の問題だけでなく、重なった部分が磨きにくくなることで虫歯や歯周病のリスクを高めます。もし下の歯並びの変化に気づいたら、一度歯科医院でレントゲンを撮ってもらい、親知らずの状態を確認してもらうことを強くお勧めします。