私は50代半ばまで、健康だけが自取りの人間でした。趣味の釣りで週末は海に出かけることが多く、日焼けした肌は健康の証だとさえ思っていたのです。そんな私に異変が起きたのは、3年前の冬のことでした。最初は下唇の右側が少しカサカサして、ひび割れたようになっただけでした。よくある冬の乾燥だろうと思い、薬局で購入したリップクリームを塗ってやり過ごしていました。ところが、1ヶ月経っても2ヶ月経っても、その傷口が塞がることはありませんでした。それどころか、傷の部分が少し盛り上がってきて、固いしこりのような手触りになっていったのです。痛みはほとんどなく、たまに食後に醤油が染みる程度だったため、仕事の忙しさを理由に病院へ行くのを後回しにしていました。半年が過ぎる頃には、そのしこりが5ミリほどの大きさになり、表面がじゅくじゅくとして時折出血するようになりました。さすがにおかしいと思い、近所の歯科医院を受診したところ、先生の顔色が変わり、すぐに大学病院の口腔外科へ行くようにと紹介状を書かれました。大学病院で行われた検査の結果は、ステージ2の口唇がんでした。がんという言葉を聞いた瞬間は頭の中が真っ白になり、釣りばかりして紫外線を浴び続けた自分を激しく後悔しました。幸いなことに、CT検査でリンパ節への転移は見られませんでしたが、腫瘍を含めた唇の3分の1を切除する手術が必要だと言われました。手術は無事に終わりましたが、術後の鏡を見た時のショックは今でも忘れられません。唇の形が左右非対称になり、思うように口が動かせず、水を飲むのにも一苦労しました。しかし、そこからのリハビリテーションで、言語聴覚士や理学療法士の方々の支えもあり、少しずつ言葉を発することができるようになり、半年後には食事も普通に摂れるまで回復しました。この経験を通じて私が最も伝えたいのは、痛みがないからといって唇の異常を放置してはいけないということです。もし私が最初の異変を感じた時にすぐ受診していれば、切除範囲はもっと小さくて済んだはずです。現在は3ヶ月に1回の定期検診を受けながら、釣りに行く際も万全の紫外線対策を施しています。唇の小さな傷やしこりは、体が発している重大なサインかもしれません。自分は大丈夫という根拠のない自信は捨てて、違和感があればすぐに専門医の門を叩いてください。早期発見こそが、その後の生活の質を左右する最大の要因であることを、私は自らの身をもって学びました。