それは本当に些細な違和感から始まりました。毎朝の歯磨きの後、鏡で口の中をチェックするのが習慣なのですが、ある日、下の前歯の一本がほんの少しだけ、隣の歯の後ろに隠れるように傾いていることに気づいたのです。最初は「気のせいかな」「光の加減かな」と自分に言い聞かせました。だって、私の歯並びは昔から特に問題なく、むしろきれいな方だとさえ思っていたのですから。しかし、その日から私は下の歯並びが気になって仕方がなくなりました。日を追うごとに、その傾きは気のせいではなく、紛れもない事実として私の目に映るようになりました。それどころか、隣り合っていたはずの前歯の間に、今までなかったはずの小さな影、つまり歯が重なっている部分がはっきりと見えるようになったのです。どうしてだろう。昨日までと同じように生活しているのに。不安が胸をよぎりました。インターネットで「下の歯並び 悪化 大人」と検索すると、親知らず、歯周病、加齢といった、あまり嬉しくないキーワードが並びます。私の口の中で、見えない何かが起きているのかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられなくなりました。このまま放置したら、もっとガタガタになってしまうのではないか。笑顔に自信が持てなくなるのではないか。そんな恐怖に駆られ、私はついに歯科医院の予約を取りました。診察の結果、原因はやはり、横向きに埋まっていた下の親知らずが前の歯を押し続けていたことでした。この小さな気づきがなければ、私はもっと歯並びが悪化するまで放置していたかもしれません。自分の体の小さな変化に耳を澄ますことの大切さを、身をもって知った出来事でした。